AI(人工知能)の台頭によって消える仕事があると言われています。それは当然でしょう。企業の支出の中で最大の割合を占めるのは人件費ですから(支出割合のうち人件費が40~50%くらいの企業も結構あるのではないでしょうか)、企業が利益を追求するためには『AIの導入による人件費の削減』が今後はより求められていくでしょう。
弁理士業務はAIで代替可能か?
弁理士業務において、AI化したほうが良い業務と、AI化は無理だろうと思われる業務があります。
AI化したほうが良い業務(出願系)
繰り返しの業務や、単純作業は人間が行うとミスが起こります。一方、それは機械の得意分野でミスが起こりにくいです。このような視点からAI化したほうが良い業務を挙げてみます!
- 明細書の作成の一部
弁理士が列挙した明細書のキーワードから、関連する文章をこれまでに作成した明細書ストックの中から選択し、コピペするような作業はすることができるでしょう。このような切り貼りだけでも行ってくれるAIがいてくれたらだいぶ明細書作成の必要時間が削減されると思われます。むしろ、AIではなくても、マクロやその他のシステムかなんかでできるかもしれませんが。 - 特許庁提出書類の作成及び特許庁提出報告といった、事務的作業
特許事務所において事務は専門的な業務ではありません。もちろん特許業務全般に事務作業は必須であって、事務担当の方は必須です。ただし、現状のやり方が効率的なやり方なのかと問われたら『Yes』とは答えられないと思います。人が行う作業にはどうしてもミスが出てきます。それを複数名でチェックして、修正を重ねて最終的な書類を完成させるというのは、現状の特許事務所としては必須ですが、人件費の観点だけから言えば削減の余地があるでしょう。
AI化は無理だろうと思われる業務(出願系)
対人の業務はAIではまだ無理でしょう。少なくともここ10~20年では・・・
- クライアントの発明相談
クライアントの話は必ずしも完璧ではありません。むしろ完璧な人間などいません。その周辺技術やどこに進歩性を見出しているのか等の足りない情報を聞き出し、出願できるか否かの判断をすることはAIでは難しいでしょう。 - 明細書作成の大部分
明細書作成のキーワード選定、明細書の最終チェックなどは人の目でなければわからないでしょう。 - 明細書案に係るクライアントとのやり取り
AIでは、無理でしょう。専門技術に関する対人業務に関しては、弁理士でなければできないでしょう。(一方、デパートの施設案内等であれば、ペッパーのようにAIでも対応可能でしょう。)
AI化したほうが良い業務(中間系)
- 補正書や意見書においては、テンプレート作成と形式的な請求項補正
一部の請求項で補正をした場合、従属項や関連請求項の補正を同時に行ったり、請求項番号の修正を行う作業といった形式的な補正に関しては、実際に行っていて『ミスをしてはいけない』部分ですので神経を使うし、機械的な作業ですのでAI化できる業務でしょう。また、出願人名や最新の請求項の記載をテンプレートに落とし込む作業もAIにすべて行ってほしい業務です。 - 特許庁提出書類の作成及び特許庁提出報告といった、事務的作業
出願系と同様にAI化による削減の余地はあると考えられます。
AI化は無理だろうと思われる業務(中間系)
- 拒絶理由に対する応答の大部分
OA応答は、文書を通した審査官との対話です。審査官の言わんとしていることを汲み取る力が要求されます。文字通り解釈してよいのか迷う部分も多々あります。このように専門的な解釈が介入せざるを得ない部分に関しては、AIではまだ無理でしょう。
AI化したほうが良い業務(その他)
- 翻訳業務
外国案件(外内、内外)はいずれも翻訳が絡んできます。当然翻訳業務や外国代理人とのメールのやり取り、外国代理人に対する指示をすることが生じます。翻訳業務自体は事務業務とは異なり専門職が行います。しかし、現在技術が進歩して、もうすでにAIが特許翻訳を行えるようになっています。現状ではまだ精度が低いかもしれません。しかし、数年後には特許翻訳者に取って代わる存在になるでしょう。 - 特許調査の一部
調査は手間のかかる作業です。しかも失敗が許されません。考えられ得るあらゆる特許分類(ターム)をしらみつぶしに調査できるAIがあればよいと思います。人がやる調査には限界や漏れが生じる恐れがあります。 - 見積もりの作成
見積もりの作成依頼は結構多く来ます。全件対応するのは骨が折れます。AIが企業ごと、国ごと、外国代理人ごとの見積もり作成を瞬時に作成してくれたらよいと思います。 - 所内管理
経理や人事等の仕事は人が行わなくても良い仕事だと思っています。
AI化は無理だろうと思われる業務(その他)
- 所内研修、セミナー、外部講師
AIでは人に専門的な知識をわかりやすく教える能力はまだないでしょう。そのため、後輩育成、後進育成の業務は弁理士がやらなければなりません。 - クライアント対応、外国代理人対応
もちろん対人業務ですので、AI化は無理です。各弁理士のスキルアップが大事でしょう。 - 異議申し立て、審判、訴訟
これらも、AIでは無理でしょう。審査官、審判官、裁判官の意図を人間が正確に把握する必要がありますので。
AIの存在は非常に大きい。しかし弁理士はそれ以上の存在であるべき。
企業としても特許事務所としても、人件費問題は大きい問題でしょう。
AI導入に踏み込む企業や特許事務所は多いでしょう。
AI導入に関して強調したい点は、弁理士が現在行っている業務自体はAIによっては大きく損なわれることはないということです。
一方で、事務担当や翻訳者が担当している業務の方がAIの存在によって代替されるものであり、事務担当や翻訳者の人件費が削減されるのではないかと考えられます。
弁理士にとっては、むしろ、事務担当や翻訳者に係る人件費が削減されることによって、給料自体上がるのではないかと思っていますので、利益があるのではないでしょうか。さすがにAI導入及びAIに係るメンテナンス費用、AIに係るライセンス費用等を合わせても、長期的に見たら削減した人件費以上の支出にはならないと思われますので。
つまり、弁理士はAI導入によって利益を享受することはあれど、AI導入によって損害を被ることはないのではないかと考える次第です。
『弁理士の実際に行う業務』と『AIの得意とする分野』とでは重複しない部分が多いため、弁理士業務をAIで代替することはできないと思われます。
結論を言ってしまえば、弁理士もAIもどちらも非常に優れている存在であるべきであり、弁理士がAIを駆使することによって相乗効果が得られると考えられます。
↓↓今後の弁理士の在り方の一つの参考です。
弁理士は、AIによって消えていく職業ではありません。
弁理士はAIをどんどん導入・活用したいものです。
今後ますますの弁理士業の分野においてのAIの発展を願っています。
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